まーけーてー♡
アリスの全身に衝撃が走った。

アリス(今日、エルゼちゃんに本を返す日じゃん……!)
一週間前、エルゼの読んでいた本に興味を持ったアリスは、
快く貸してくれた彼女に喜んで受け取り、そのまま家に置いたままだったのだ。
これまでアリスは、忘れたノートに授業内容を写すためのノートを
エルゼから何度も借りては返し忘れる、ということを繰り返してきた常習犯であった。
流石のアリスも、故意ではないとはいえ、またしても返すのを忘れていたとなると……。

アリス「やばいやばいやばい どうしよどうしよ……あ」
パニックになっていたアリスはふと、あることを思いつく。
アリス(そうだ、魔法使えば良くない?)
思い立ったが吉日。アリスはステッキを取り出し、意気揚々と呪文を唱えた。
アリス「パヴリルパウララマジカリーナ~ エルゼちゃんに借りた本よ出てこいっ!」
ポン!という軽い破裂音と共に、エルゼから借りたそのままの本が出てきた。
アリスはそれを両手で持つと、ニヤニヤと笑った。
アリス「しっししし~こういう時、魔法があると楽だ……」
アリス「ね……」
ペラッ……

アリス「…………」
アリスが適当に本を開いた瞬間、アリスは固まってしまった。
なんと、真っ白。 本の中身は完全な白紙だった。 アリスの頭の中も真っ白になってしまう。
アリスの魔法は『アリスが借りた本を転送させる』ものではなく、
『アリスが借りた本を再現した本のようなものが出てくる』ものだった。
つまり中身が何も書かれていない、ということは。
アリスはエルゼから借りておいて全く読まないまま放置し、
約束の日に忘れてくるというあほったれなのだった。

アリス「うっそ~~~!?うそうそうそ!?どうして!?」
どうしても何も、読みたがるだけ読みたがって、
借りるだけ借りて、読まずに放置し、挙句の果てに忘れてきたお前が悪い。

???「アリス。」

アリス「ぎゃあああああああ!」
背後から不意に聞こえてきた静かな声に驚き飛び上がる。

エルゼ「……。」

アリス「ってな~んだ、エルゼちゃんかあ。もう~驚かせないでよ」

エルゼ「……ただ、声を掛けただけだよ。」
アリスはバクバク鳴る心臓を抑えるように手を添えて、平静を装いながら振り返る。

アリス「あは、あはははは、おはよ~」

エルゼ「……?」
エルゼ「そういえば……」

アリス「今日の授業はなんなんだろうね~」

エルゼ「私の本は?」
アリス「……ぁっ」
アリス「こ、これのことだよね!ありがとう~面白かったよ~!」
エルゼに本を渡すや否や、アリスはその場からすぐさま離れるように
走る体勢を取った。それとほぼ同時に。

エルゼ「中に何も書かれていないよ。」
アリス「…………」
アリスはエルゼの方に視線を向けると、
両手の人差し指を両頬に付け……

アリス「おねーちゃーん、まーけーてぇぇぇぇぇぇ♡」
かわいこぶって許してもらおう作戦。
しかしアリスの笑顔は引きつり、次第に汗が流れ始める。
エルゼ「…………。」
あまりにも切羽詰まったような、
追い詰められたような、そんな必死の表情に
エルゼも察さざるを得ないのであった。